2025.12.20

ゆうた:「さとみさん、ちょっと相談に乗ってよ。うちの会社で長年頑張ってくれてるベテランの職人さんが、もうすぐ70歳になるんだ。あと、最近入った週2日だけのバイトの子についても、住民税を給料から引かなきゃいけないのか分からなくて……。」
さとみ:「ゆうたさん、お疲れ様。ベテランさんの活躍は嬉しいけど、年齢による手続きの切り替えは結構ややこしいわよね。特に『70歳』や『75歳』は社会保険の大きな節目になるから。」
ゆうた:「そうなんだよ。年金事務所から『70歳以上被用者標準報酬月額相当額決定のお知らせ』なんて長い名前の書類が届いて、パニックだよ!保険料は取られないはずなのに、なんで金額が決まるの?あと、バイトの子は健康保険に入ってないから、住民税の天引き(特別徴収)もいらないのかなって。」
さとみ:「それは混乱するわね。実は、健康保険や年金に入っていないことと、住民税の天引きができるかどうかは、法律上の理由は別物なの。でも、実務上はリンクしている部分が多いのよ。今日はそのあたりの整理をしっかりしましょう!」
従業員を雇用する事業主にとって、社会保険(健康保険・厚生年金)、雇用保険、そして住民税の事務手続きは避けて通れない道です。特に、高齢者の雇用維持や短時間労働者の活用が進む現代において、「どのタイミングで、どの保険から抜けるのか」「誰の住民税を特別徴収すべきなのか」を正確に把握することは、コンプライアンス遵守の観点からも非常に重要です。
本記事では、大阪府守口市の行政書士が、実務で間違いやすいポイントを絞って詳しく解説します。
原則として、所得税を源泉徴収している事業主は、従業員の住民税も給料から天引きして市区町村に納める「特別徴収」を行う義務があります。しかし、一定の条件に当てはまる場合は、例外として普通徴収(本人が直接納付)に切り替えることができます。
総務省や各自治体が定めている、特別徴収の「除外理由」は主に以下の通りです。
よくある質問に「健康保険や雇用保険に入っていないパート・アルバイトなら、住民税の特別徴収もしなくていいですよね?」というものがあります。
しかし、実務上はこれらが密接に関連しています。社会保険の加入対象外となる人は、「労働時間が短い」「雇用期間が短い(2ヶ月以内など)」ケースがほとんどです。このような場合、自治体からは「雇用の継続性がない」「毎月安定した給与が発生しない」と判断され、結果として特別徴収の除外対象として認められやすくなります。
従業員が高齢になっても働き続ける場合、制度ごとに「資格を喪失するタイミング」が異なります。ここを間違えると、不要な保険料を徴収したり、逆に必要な手続きを漏らしたりすることになります。
タイミング:75歳到達時
75歳の誕生日当日をもって、それまで加入していた健康保険(被用者保険)の資格を喪失します。それ以降は、すべての人が「後期高齢者医療制度」に移行します。これは強制的な切り替えであり、本人が働き続けていても、役員であっても例外はありません。
タイミング:70歳到達時
厚生年金の被保険者資格は、70歳の誕生日の前日に喪失します。70歳以降は、どれだけ高い給料を支払っていても、厚生年金保険料を本人から徴収したり、会社が負担したりする必要はなくなります。
タイミング:年齢による上限なし(原則)
意外と知られていないのが雇用保険です。雇用保険には、健康保険や厚生年金のような「〇歳になったら自動的に資格喪失」という年齢制限はありません。週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば、80歳でも90歳でも加入継続となります。ただし、65歳以上で新規加入した場合は「高年齢被保険者」という区分になります。
| 年齢 | 健康保険 | 厚生年金保険 | 雇用保険 |
|---|---|---|---|
| ~64歳 | 加入(要件満たす場合) | 加入(要件満たす場合) | 加入(要件満たす場合) |
| 65歳~69歳 | 継続加入 | 継続加入 | 継続加入(高年齢被保険者) |
| 70歳~74歳 | 継続加入 | 喪失(保険料なし) | 継続加入 |
| 75歳~ | 喪失(後期高齢者へ) | (加入不可) | 継続加入 |
ゆうたさんが困っていた「70歳を過ぎたのに届く給与額の通知」。これには重要な意味があります。
70歳を過ぎると厚生年金保険料はかかりませんが、一方で「在職老齢年金」という仕組みが働き続けます。これは、「老齢厚生年金を受け取っている人が働いて一定以上の収入がある場合、年金の一部または全部をカットする」というルールです。
日本年金機構は、その従業員の年金をいくらカットすべきかを計算するために、会社が支払っている給与額を把握し続ける必要があるのです。その「把握した給与額(相当額)」を本人と会社に知らせるのが、この通知の役割です。
現在、基本月額(年金月額)と総報酬月額相当額(給与月額)の合計が「50万円」を超えると、年金の支給停止が発生します。この「総報酬月額相当額」を確認するための基準が、通知に記載されている金額です。保険料の天引きが発生するわけではないので、従業員の方にもその旨を伝えて安心させてあげてください。
高齢者が節目を迎えた際、会社側で行うべき手続きを整理します。
建設業界などの現場では、ベテランの職人さんが「年金がカットされるなら給料を下げてくれ」と言ってきたり、逆に「手取りを減らしたくないから社会保険に入りたくない」と要望されたりすることが多々あります。
しかし、勝手な判断で社会保険の加入を控えたり、実態と異なる給与報告をしたりすることは、後に年金事務所の調査が入った際に大きなペナルティを課されるリスクがあります。
いかがでしたでしょうか。健康保険、年金、雇用保険、住民税。これらはそれぞれ異なる法律に基づいていますが、現場の実務では複雑に絡み合っています。
「この通知、どう処理すればいいの?」「このバイトさんは特別徴収しなくていいの?」と迷ったときは、自己判断せず、ぜひ当事務所へご相談ください。大阪府守口市の地域密着型事務所として、迅速かつ丁寧に対応いたします。